「デザイナーって、AIでなくなる仕事だよね」
去年あたりから、何度か言われるようになりました。悪気なく言われるぶん、うまく返せずに飲み込んだこともあります。
こんにちは、ソンイです。株式会社FILLMANでデザイン制作をしています(制作実績は1,000件以上)。デザイナー向けの講座も運営していて、受講生からいちばん多く届く相談が、この「AIに仕事を奪われませんか」です。
だから、ごまかさずに書きます。
先に結論だけ言うと、奪われた仕事は、実際にあります。私の会社でも減った仕事があります。それを「大丈夫です、AIには人の心は作れません」みたいな言葉でふわっと隠すのは、たぶん誰の役にも立ちません。
そのうえで、増えた仕事もあります。しかもそちらのほうが単価も満足度も高い。
この記事では、うちの会社で実際に減った仕事・増えた仕事を具体的に出しながら、これからデザイナーが何をすればいいのかを書きます。
結論:なくなるのは「作業」、残るのは「決めること」

境目はきれいに分かれています。
- 手を動かす作業……AIに置き換わっていく
- 何を作るか決めること……人に残る
「切り抜く」「並べる」「書き出す」は作業です。ここは速さと安さで勝負が決まるので、AIが強い。
一方で「この会社は何を売りにするのか」「だからどの色を使うのか」「その判断で3ヶ月後も困らないか」は、決めることです。ここはAIが苦手というより、AIには決められない。責任を取る主体がいないからです。
つまり、なくなるのは「デザイナー」という職業ではなく、デザイナーの仕事のうち作業だった部分です。
うちの会社で、実際に減った仕事
正直に書きます。この2年で明確に減りました。
バナーの量産
「同じ型で色とテキストだけ違うものを30本」という依頼は、以前は立派な仕事でした。今はテンプレートとデータを用意すれば数分で終わります。
これを「仕事が減った」と嘆くのか、「30本作る時間が浮いた」と捉えるかで、この先がかなり変わります。
写真の切り抜き・レタッチ
昔はPhotoshopで15分かけていた切り抜きが数秒です。電線や通行人を消す作業も、なぞるだけになりました。
「きれいに切り抜けること」自体には、もう価値がありません。
ラフ案の初稿
「こういう雰囲気で3案」の最初のたたき台は、AIに出させたほうが速いことが増えました。ゼロから悩む時間が減った分、どの方向で行くかを考える時間に回せています。
議事録・文字起こし・簡単な文章
これはデザイン業務ではありませんが、制作会社の中では地味に時間を食っていた仕事です。ここはほぼ全部AIに移りました。
逆に、増えた仕事

そして、ここからが本題です。
①「AIで作ってみたけど、なんか違う」の相談
これが圧倒的に増えました。
社内でCanvaや生成AIを使ってバナーやLPを作ってみた会社さんが、出来上がったものを見て「悪くないけど、なんか違う」と気づく。そこで相談が来ます。
以前は「作れないから頼む」でした。今は「作れたけど、これでいいのか判断できないから頼む」に変わっています。
② ブランドの一貫性を決める仕事
AIは1枚ずつは上手に作ります。でも10枚並べたときにバラバラになる。色の幅、文字の太さ、写真のトーン、余白の取り方——少しずつズレて、全体として「この会社らしさ」が消えます。
「ルールを決めて、それを守れる形で渡す」という仕事は、明確に増えました。
③ 判断そのものの外注
「A案とB案、どっちがいいと思いますか」
この質問に答える仕事が増えています。作る前の段階で呼ばれることが多くなりました。手ではなく、目と判断を買われている感覚です。
④ 社内で使えるようにする仕組みづくり
「自社でも作れるようにしたい」という依頼です。テンプレートとルールを整えて渡し、運用まで見る。納品して終わりではなく、その後も続く関係になります。
なぜ「なんか違う」が起きるのか
AIが持っていないものは、大きく3つです。

1. 文脈|誰に、何のために
AIは「おしゃれなバナー」は作れます。でも「30代後半の、子育て中で、時間がなくて、過去に一度別のサロンで失敗している人に向けたバナー」は作れません。その人の存在を知らないからです。
デザインが刺さるかどうかは、この文脈をどれだけ具体的に持てているかで決まります。ここは取材と対話の領域です。
2. 責任|これで行くと決めること
AIは何案でも出します。でも「この案で行きましょう」とは言いません。言えません。
外れたときに責任を負う人がいないからです。そして発注する側がいちばん欲しいのは、実は案の数ではなく、この決定を一緒に背負ってくれる相手だったりします。
3. 一貫性|3ヶ月後も同じ判断ができるか
AIは毎回すこし違うものを出します。悪気なく、ゆらぎます。
ブランドはゆらがないことで信頼を作るので、ここは根本的に相性が悪い。「同じ判断を繰り返せる」という、人間にとっては地味な能力が、いまは価値になっています。
これは、私だけが言っていることではありません
2026年8月、オンライン講座プラットフォームのMOSHが企画した「TORCHISM Vol.06 Designer ver.」に、FEATURED DESIGNERS 12名の1人として参加しました。品川駅のサイネージで1週間放映された企画です。
この企画のテーマが、「誰でも、作れる。それでも、クリエイターと。」でした。
生成AIでデザインが似ていく時代に、評価の軸は「どう作るか」から「何を、なぜ、誰が表現するか」へ移っていく——という考え方です。私がこの記事で書いてきたことと、ほぼ同じことを言っています。
このあたりの経緯は別の記事に書きました。→ 品川駅の広告に載りました|MOSH「TORCHISM」に選出いただきました
じゃあ、デザイナーは何をすればいいのか

① AIを「部下」ではなく「新人が100人いる状態」だと思う
新人100人に「いい感じにやっといて」と言っても、いいものは出てきません。指示の具体度がそのまま成果物の質になります。
逆にいえば、指示が具体的に書ける人は、AIを使うほど差が開きます。これは今までの「ディレクションが上手い人」がそのまま強いという話です。
② 手を動かす時間を、決める時間に振り替える
作業が速くなった分を「もっとたくさん作る」に全部使うと、単価の下がるレースに自分から入ることになります。
浮いた時間は、ヒアリング・設計・言語化に回す。ここが、これから値段がつくところです。
③「なぜこの色か」を説明できるようにする
これが、いちばん効きます。
同じデザインを出しても、「なんとなくこれが可愛いと思って」と言う人と、「ターゲットが30代後半で、競合が濃い色を使っているので、あえて彩度を落として差別化しました」と言える人では、相手の納得がまったく違います。
AIは説明もそれっぽく作れますが、その場で質問されて答えられるのは人だけです。
それでも不安な人へ
ここまで書いておいて何ですが、私自身も不安になることはあります。
私はもともと、デザインをずっとやってきた人間ではありません。造形学部を出たあと、アパレル業界と事務職を経験していて、デザインからは約8年離れていました。
学び直したのは2020年、コロナ禍がきっかけです。在宅で働きたいと思っていたときに「デザイナーはオンラインで活動できる」と知り、基礎からやり直しました。初めての仕事は、名刺1件の9,000円です。そこから独立して、法人にして、今に至ります。
だから、新しいものが出てくるたびに感じる焦りは、よく分かります。そして私の場合、その焦りは今もなくなっていません。AIが落ち着いても、次の何かがまた来ると思っています。
だとしたら、身につけるべきは特定のツールの使い方ではなくて、変化が来たときに学び直せることそのものなんだと思っています。それは、一度やった人にはもうある力です。
AIに奪われるのが怖いと感じている時点で、変化をちゃんと見ているということでもあります。見ていない人のほうが、本当は危ない。
まとめ
| 減ること | 残ること・増えること |
|---|---|
| 切り抜き・レタッチ | 誰に何を届けるかの設計 |
| バナーの量産 | ブランドの一貫性を保つルール作り |
| ラフの初稿づくり | 「この案で行く」という決定 |
| 単純な書き出し作業 | 判断の理由を説明すること |
AIが得意なのは「作る」です。デザイナーの仕事は、思っているより「決める」でできています。
だから、作業が速くなったこと自体は、たぶん追い風です。問題は、浮いた時間を何に使うかだけです。
実際にどう使っているかは、Instagramで話しています
この記事では考え方を中心に書きました。具体的にどのツールをどの場面で使っているかは、Instagram(@_ulidesign_)で実際の画面を見せながら紹介しています。
私が運営している2つの講座では、それぞれ別の角度からこのテーマを扱っています。
- Insta Design Right……Canvaと生成AIを実務の流れの中でどう使うか
- デザイナーブランディング講座FILLMAN……「決める側」に回るための設計・ヒアリング・言語化
「作業は速くなったけれど、この先どうすればいいか分からない」で止まっている方は、のぞいてみてください。


